このページは、前ページ「曼珠沙華が咲いて 秋剪定終了」の続篇です。前ページの内容の一部「Mg欠乏症とその対策」に関する部分が膨らみすぎたのでページを分割し、後半部分のMg欠乏症に関する記述をこのページに移動しました。
このページでは、5月以降の肥培管理などの問題点をどのようにリカバーするかについて検討し、経過と結果を記録します。
なお、内容の一部は "書きかけ" で、今後、頻繁に修正や追記を重ねることになります。「液肥の作り方」などガイド的な内容もありますが、それも含め "個人の作業記録" です。データの客観性は保証できません。
内容
- マグネシウム欠乏症
- マグネシウム欠乏症の原因
- マグネシウム欠乏症の対策 固形肥料から緊急対策用の液肥を作る
- 微量要素だけでなく 肥料三要素も溶脱か
- 肥培管理 pHとECの推移(別ページ:「リカバーの10月 pHとECの推移」に移動)
1. マグネシウム欠乏症
バラがこの季節に葉を落とす原因は、夏の間の水不足や黒星病などいくつかあるが、今回は「マグネシウム欠乏」が原因だと思われる。クロロシスを引き起こす原因は「鉄欠乏」もあるが、その場合は必ず上位葉から症状が出るので、"鉄欠" ではないことは確か。
バラ栽培を始めて10年以上が経過しているのに、こんなことでは情けない(恥ずかしい)かぎりだが、まず症状の進行程度を複数の株から選んで、順に記録する。
1 症状は下位葉の葉縁部と、葉脈の間が黄変し始める
2 黄変がひどくなっても葉脈はまだ緑色を残している
3 黄変が点から面に広がり、葉縁部はすでに枯死
4 枯死した葉は個別にあるいは葉柄ごと落ちる
追記:右上の写真2は、1,3,4 の「マグネシウム欠乏症」とは異なり、別の要素の欠乏症を併発しているかもしれない。後述するが、今回の症状は肥料成分の流亡による可能性があり、マグネシウムだけが欠乏したのではないだろう。
オートファジー
この症状は、下位葉の葉緑体などを分解して得たマグネシウムを、より重要な茎頂部に転流させるための "オートファジー (Autophagy) " が起きているのが原因と考えている。
参考:「植物の必須栄養素から考える植物オートファジーの重要性」 吉本 光希|明治大学農学部生命科学科
この論文の冒頭部分を、「生化学」Vol.91 No.5|公益社団法人日本生化学会 から一部引用。 改行と傍線:そら
独立栄養生物である植物は,土中から無機栄養素を吸収し,太陽光のエネルギーを最大限利用して化学エネルギーに変換することで無機物から有機物を獲得する.植物は動物とは異なり,無機栄養素だけで生育することが可能である.(snip)
これら無機栄養素の欠乏は(またはその種類によっては),移動することのできない植物に過度なストレスを与える.最近になって,植物がさまざまな無機栄養素の欠乏時に "自己成分分解" を発動し,ストレス応答している ことが明らかになってきている.
この "自己成分分解"(自食作用)がオートファジー。植物は、ストレスにさらされても生き延びて子孫を残す知恵を備えている。
細胞基質や葉緑体が分解され、内容物が回収された状態
回収し終えると葉柄が褐変し、基部に離層ができて落葉する
これは、マグネシウムに限らず茎頂で再利用できる物質=タンパク質を分解したアミノ酸(肥料成分を含有する)や脂質、糖をほぼ回収し終えた状態。病害虫による被害葉ではないので綺麗な黄葉になって、この2日後に落葉した。
2. マグネシウム欠乏症の原因
ではなぜ マグネシウムが不足 したのか。自分の栽培環境で考えられる理由;
- 灌水用水の高いpH(水素イオン濃度)
- マグネシウム施用量の不足
- 灌水の不適切さで生じた根痛みによる吸肥力の低下
- マグネシウムの培土からの溶脱
- 高pHによるマグネシウムの不可給化
- 他の肥料成分とのバランスの悪化、あるいは拮抗作用
マグネシウム不足を引き起こした原因はまず何より自分の迂闊さにあるが、具体的にはこれらの項目のいずれの場合もありうるので、それに応じた対策を項目ごとに考えてみる。ただし 6. については経験や知識がないので、関連情報の引用のみ。
1. 灌水用水のpH
灌水に使用している農業用水は pH8.0〜8.5。このようなpHでは微量要素が吸収されにくくなるのだそうだ。問題の元凶は、この農業用水の高いpH。数カ所の農業用水路の水質(水素イオン濃度と電気伝導度)をチェックしたが、どこでも似たような結果。降雨はpH6.0前後、日によってはそれ以下のこともあるのに、雨が流れ込む用水路はpH8.0。これは、森林や水路の微生物や水棲植物が吸収する硝酸イオンの割合が多いことで生じる結果らしい。水道水はpH7.2前後だが、畑に水道はないので、農業用水を使わざるを得ない。
この用水を pH6.5 程度に下げるために、"クエン酸2%水溶液" を添加 している。後述するが、これも栽培状況(今回の問題)に大きく影響している。なお、pHメーターは随時校正しており、計測値は栽培用としては信頼できる。
2. マグネシウムの施用量の不足
マグネシウム(Mg)供給のために使用している主な肥料は以下の2種類。もちろん、NPKを供給する肥料が有機質なら、それにも幾分かのMgは含まれている。
1. マグホス
マグネシウムは、"マグホス" (苦土過燐酸石灰/く溶性)を、クエン酸2%水溶液で溶解し、それを原液として用水に混ぜて希釈して、不定期(1〜2週間に一回程度)施用。pHとECはチェックするが、施用量は適当:p 『多少のことではMg過剰障害は出ない』という認識もあり、十分な量を入れているつもりでいた。"マグホス" の保証成分、含有成分は次のようなもの。
苦土過石:マグホス|アグリ事業 肥料 カタログ|事業情報|多木化学㈱ から図の一部を引用
苦土は "マグネシウム"、過石は "過リン酸石灰"。福岡・田主丸で、バラ苗や果樹、庭木類の栽培農家を対象にした「スワ肥料店」さんのお勧めもあり、リン酸を含む成分もバラ栽培に適していると思うので、何年も安心して使用している。
根酸によって分解される "く溶性" なので、鉢植えの追肥には使いにくい。これを用水の酸度調整に使用しているクエン酸2%水溶液で溶解すれば一石二鳥で、それを希釈したものを使用液として灌水している。使用液のpHとECは機に応じてチェックしている。
マグホスの "ホス" はリン酸 (phosphoric acid)で、マグはもちろんマグネシウムだが、その含有量はネーミングされた割には "く溶性クド3.5%" と少なめ。たぶんリン酸と苦土のバランスはこの程度が良いのだろう。
2. ハイグリーン
もう一つの微量要素の供給源として、エムシー・ファーティコム㈱の "ハイグリーン" も1シーズンに1回、年3回程度、粒状のまま鉢土表面に施用。これは苦土(Mg)を14%含み、 "水溶性" なので使い勝手が良い。同社資料から成分表を引用;
ハイグリーン 成分表
銘柄名 |
クド |
マンガン |
ホウソ |
鉄 |
銅 |
亜鉛 |
モリブデン |
コバルト |
コロイドケイ酸 |
成分(%) |
14.0 |
0.40 |
0.30 |
1.20 |
0.02 |
0.030 |
0.004 |
0.004 |
16.0 |
- クド・マンガン・ホウソは保証成分。銅・亜鉛・モリブデンは効果発現促進材として登録成分
水溶性なので、多量に追肥すると成分が一気に溶け出して過剰障害が起きる心配がある。鉢植えの追肥に使用する場合は少量・多回数の施肥がポイントか。これを液肥にすると濃度を計算、あるいは計測できるメリットがある。
中量・微量要素の供給源はこの二つがベース。『マグホスはやり過ぎかも』と思っていたので、葉の異常に気づいたときも、欠乏ではなく "過剰" を疑ったほど:p
しかし問題は「不定期に施用し、その量は適当」という部分。もちろん当初はそれなりに計算して定期的に使用していたのだが、いつの間にか慣れてしまって、いい加減になっている:p 猛省すべきだが、でも、今回の症状の原因が "Mg施肥量の不足" とはまだ断定はできない。
3. 根痛みによる吸肥力の低下
春の花後から夏にかけて適切なタイミングで灌水をすることができず、乾燥と過湿を繰り返した。この期間の灌水作業は、午前中から38°C超えのハウスの中で毎日2時間以上かかる。給水だけならまだしも、鉢受け皿に溜まった排水を処理するのが苦行。体力の衰えをカバーし熱中症を避けるために「どうやって手抜きをするか」が優先した:p たぶん、この間に傷んだ根があっただろうと思われる。
4. 肥料分の培土からの溶脱
前述のように、使用している農業用水の高pHに対応するため "クエン酸2%水溶液" を添加している。クエン酸はpHを調整するだけではない。
Important:クエン酸の発根作用機作 | みんなのひろば | 日本植物生理学会
この記事で指摘されているように、クエン酸(などの有機酸)はマグネシウムなどの無機塩類を根が吸収できるよう "遊離可溶化" する。その効果は試験栽培でも確認されているが、でもこれは逆に言えば、培土から "溶脱させる" ことでもある。鉢栽培なので流亡も多いし、施肥量のすべてを利用できるわけではない。
無駄な溶脱を防ぐために、潅水量を控えめにしたり、あるいは排水の再使用も試みたが、結果的にこのような症状を引き起こして、これらの試みは失敗だった。クエン酸は用水のpH調整のため今後も使わざるを得ないのだが、灌水方法とそのタイミングや量は見直す必要がある。
5. 高pHによるマグネシウムの不可給化
今年は「元肥一発方式」を試みるべく、培養土に天然有機石灰の "粒状セルカ" |卜部産業㈱
を混入した。鉢栽培を始めた頃、Ca不足によるチップバーンに悩まされた経験がトラウマになっていて、pHが上がるのを承知で入れた。これが今回のトラブルのもう一つの元凶。
培養土を作りながらチラリと悪い予感はしたが:p 微量要素が豊富なのもセルカを加えた理由。今にして思えば、Caやその他の微量要素の供給源はいくつかあり、例えば上記マグホスは26%の石灰(カルシウム)を含んでいるので、あえて "アルカリ分47%" の資材を使う必要はなかった。
粒状セルカ 成分表
アルカリ分 | N | P | K | Mg | Fe | B | Mn | Zn | Cu | Mo |
47% | 0.34% | 0.29% | 0.7% | 0.8% | 0.9% | 390ppm | 1400ppm | 84ppm | 12ppm | 8ppm |
JA全農の資料によれば、セルカの特徴として『酸度のおだやかな矯正をします』とのこと。これは別の言い方をすれば、『酸度を急に変化させることはできません』という意味なのかも。その影響なのか、クエン酸2%水溶液で調整したpH6.0の用水を何度か灌水しても、鉢底から流れ出る排水は今でもpH8.1程度。pH8.0を6.0にするには、"水酸化物イオン濃度" を1/100にするということ。水酸化物イオンはセルカから "おだやかに" 供給され続けているのか、なかなか下がらない。
高pH(アルカリ性)の培養土だと、なぜマグネシウムの吸収が阻害されるのか、残念ながらその詳しい理由がわからない。鉄(Fe)の場合は、以下のページに説明がある。
カルシウム過剰による鉄欠乏症状 | みんなのひろば | 日本植物生理学会
このタイトルは質問者によるのもので、回答者によればカルシウム過剰と鉄欠乏症は関係ない。ここではマグネシウムについての記述はないが、鉄(Fe)の場合は、植物が吸収できる二価鉄がアルカリ性土壌では植物が吸収できない三価の水酸化鉄、さらには不溶性の酸化鉄になると説明されている。マグネシウムにも何らかの反応が起きて、バラが吸収できない状態にあるのかもしれないことは想像できる。
ここでもう一つの疑問が生じる。培養土の高pHが原因でマグネシウム欠乏症が出たのだとしたら、なぜ同様に鉄欠乏症が出なかったのか?
その答えは、うどんこ病対策に散布した殺菌剤に、鉄力アクアF10|愛知製鋼 を混入していたから。
5月からの散布は「2023年 夏秋 殺菌・殺虫剤の散布記録」にある。今まで12回の散布のうち10回は "鉄力アクアF10" を規定濃度で混入している。これには二価鉄(15,000mg/L)の他に マグネシウム(Mg 3,000mg/L)も含まれてはいるが、それではMg欠の発症を防ぐほどの量ではなかったと推測される。
実栽培で土壌酸度を下げるのは難しい。例えばpH8.0のA資材とpH6.0のB資材を同量混ぜれば中和されてpH7.0になるような気がするが(そんな浅はかなのは自分だけか:p )、そう単純にはいかない。注目しているのは "硫酸マグネシウム" 。Mgを供給しつつ、土壌酸度も下げる両狙い。次の3章でその方法を検討する。
6. 他の肥料成分とのバランスの悪化、あるいは拮抗作用
参照:要素欠乏症状の対策|野菜栽培技術指針|秋田県野菜栽培技術指針:農林水産省(元データ) から引用
マグネシウム
(Mg欠乏症の応急対策は)1~2%の硫酸マグネシウム溶液を1週間おきに3~5回葉面に散布する。*
土壌中の置換性Mgが10mg以下の場合はMg資材を施用する。土壌pHが高い場合は硫酸マグネシウムを施用する。土壌中にMgがあっても、KやNが過剰の場合や、Pが不足の場合にはMgの吸収が悪くなるので、養分間のバランスを適切にするような施肥を行う。
* 「1~2%の硫酸マグネシウム溶液」なんて、とんでもない高濃度 だが、この指摘は正しいのだろうか?
肥料取締法に基づく普通肥料の公定規格では、硫酸マグネシウム肥料は「含有すべき主成分として、水溶性苦土は11%以上なければならない。遊離硫酸は0.5%以上であってはならない」と規定されている。1%の硫酸マグネシウム溶液は10,000ppm。その内、水溶性苦土の含有量が11%としても、Mg濃度は1,100ppmになる。後述するが、溶液耕・園試処方のMg濃度は 80ppm。溶液耕と葉面散布は、吸収率や吸収に要する時間が異なるから同列には比較できないにしても、桁があまりにも違いすぎる。誤記ではないだろうが、これでは説明不足で理解できない。
3. マグネシウム欠乏症の対策
手持ちの肥料で「硫酸マグネシウム」を含むのは「キーザーマグ」と「ハイグリーン」の2種類で、いずれも 水溶性。これを使って、① 緊急対策 ② 秋の開花までの対策 の二つに分けて考える。
注:以下、液肥の作り方ガイドのような説明になるが、もしこのような液肥を作るなら "自己責任" で。
それ以前に、"単肥を使う栽培" は(一般的には)賢い方法ではない ことを考慮すべき。「マグ欠によるクロロシスが出たら、硫酸マグの施肥」というのは間違いではないにしろ、植物の生理はそんな単純なものではなさそうだ。
① 緊急対策 液肥を作る
硫酸マグネシウムは水溶性。最も即効性があるのは「葉面散布」だろうが、経験がなく適正な濃度がわからない。上記の "指針" は信用できない。粒状のまま散布するのでは効果が出るまでやや時間がかかりそう。マグネシウムは植物体内での移動が比較的速やかなそうなので、粒状肥料から液肥を作って土壌灌注 でもOKなのではないか。
問題はその使用液の濃度。参考にしたのは ハイポネックスの活力剤「リキダス」。それを超えない濃度で施用する。
中量・微量要素 液肥
資材 | 原液 | 使用液(水8ℓ) |
リキダス | | | 規定濃度 | pH5.9, EC1401㎲/㎝ |
キーザーマグ | 100㌘/水1ℓ | pH2.3, EC19990㎲/㎝* | 原液60㎖+クエン酸2%水溶液40㎖ | pH5.2, EC1094㎲/㎝ |
ハイグリーン | 100㌘/水1ℓ | pH3.6, EC19990㎲/㎝* | 原液60㎖+クエン酸2%水溶液40㎖ | pH5.9, EC 713㎲/㎝ |
マグホス | 250㌘/*2%ca | pH3.2, EC17120㎲/㎝* | 原液60㎖ | pH5.8, EC 608㎲/㎝ |
- 備考:*EC19990は計測範囲オーバー *マグホス液肥(原液)については以下の「原液の作り方」を参照
使用液のpHは農業用水を使用した場合。水道水ではクエン酸2%水溶液を加えない
表の説明
EC(電気伝導度 Electrical Conductivity "導電率" と同じ)の単位は "㎲/㎝"。農業分野では "㎳/㎝" が使われることが多い。
1000㎲/㎝=1㎳/㎝
水には物質を溶かす(イオン化する)性質があり、水中のイオンが増えると電気が流れやすくなる。その電流を計測すれば、水の中にどれくらいの物質(この場合は肥料成分)が溶け込んでいるかを示す指標になる。
"リキダス" は活力剤で微量要素肥料ではないが、リキダスを規定どおりに希釈すると、pH5.9, EC1401㎲/㎝ になる。使用した用水のpHやECを加味すると、設計値はたぶん pH6.5, EC1200㎲/㎝ 程度かと思われる。液肥の ハイポネックス原液 もほぼ同様で、pH7.0, EC1218㎲/㎝ になる。HYPONeX製品は他社の液肥と比較するとやや高めの濃度設定のようだ。
手製の液肥を使用する際は、溶液耕の肥料成分表や市販液肥のデータから、"濃度の安全圏は EC1000㎲/㎝ 以下" とすれば 浸透圧" による濃度障害の心配はない。これが粒状肥料を液肥にするメリットの一つ。ただし、濃度と量は別の概念で、適正濃度でも量が多すぎれば過剰障害が出ることに注意。
クエン酸2%水溶液の作り方
水の重量の2%に相当するクエン酸を溶かす。水1ℓ だとクエン酸20㌘。
溶解後は pH2.2, EC3410㎲/㎝ 前後になり、このpHは植物の根から分泌される "根酸" やレモン果汁と同程度なので、危険性はない。
クエン酸は、ホームセンターなどで購入できる安価な "清掃用" でOK。
中量・微量要素液肥 原液の作り方
水道水と1.5ℓ 入りのペットボトルを用意する。三ツ矢サイダーのボトルは品質が良く、手に馴染んで扱いやすい。
- キーザーマグ(硫酸マグネシウム25%/水溶性)
水1ℓ をペットボトルに入れ、キーザーマグ100㌘を投入し撹拌(シェイク)する。無色透明な原液ができ、沈殿物はわずか。実測値で "pH2.3" になる。ECはメータの計測範囲オーバー。
- ハイグリーン(硫酸マグネシウム14%/水溶性)
同様に、水1ℓ に100㌘を投入。"pH3.6" になる。沈殿物が薄茶色を帯びるので、沈殿物を懸濁させて使用。pHがキーザーマグより高いのは、含有している硫酸マグネシウムの量が少ないからだろう。
- マグホス
"く溶性" なので、クエン酸2%水溶液1ℓ にマグホス250㌘を投入。かなりの沈殿物ができて、何日経っても完全には溶けない。溶解しない成分は、水に溶けない 炭酸カルシウム(CaCO3) がメインか。
*沈殿物のある原液は、使用直前にボトルに入れたままシェイクする。白濁するので、濁った成分も含めて使用する。
使用液の調整
この原液 60㎖ とクエン酸2%水溶液 40㎖ を、8ℓ ジョウロに入れ農業用水で希釈。キーザーマグ原液を希釈した使用液はpH5.2, EC1094㎲/㎝ になる。ハイグリーンは pH5.9, EC 713 と、キーザーマグよりやや控えめ。マグホスはクエン酸2%水溶液で溶解しているので添加する必要はない。
クエン酸2%水溶液を加えるのは、用水をpH6.0以下にして排水も6.5以下にするのが目的。用水をpH5.xにするには、クエン酸2%水溶液の量を増やす。キーザーマグ水溶液を増やしてもpHは下がるが、ECが上がりすぎる。
注:使用している農業用水はpH8.2程度。水道水はpH7.2前後なので、水道水ではクエン酸2%水溶液によるpH調整は不要。マグホス+水道水の場合は、原液の量を40㎖に減らす。濃度は400㎲/㎝ 程度になる
使用液のMg濃度
10号鉢にたっぷり灌水すると8ℓで5鉢分。これを基に計算すると1回の潅水で施用するキーザーマグの施用量は1鉢あたり1.20㌘。キーザーマグのMg含有率は25%なので、1鉢の潅水量1600㎖中に0.3㌘のMgが含まれる。これは 187.5 ppm。ppmの約2倍が㎲/㎝と見做せるので 375㎲/㎝ になる。キーザーマグ使用液のEC1094㎲/㎝の約半分弱がMgで、残りは他の微量要素。
同様に、ハイグリーンのMg含有率は14%なので、1鉢あたりの灌水量1600㎖中に0.168㌘のMg。これは105ppm=210㎲/㎝ になる。 (計算を間違えてないよな? 算数苦手:p )
POINT:溶液耕の標準培養液のMg濃度との比較
標準培養液の濃度|OATハウス肥料シリーズ|製品情報|OATアグリオ㈱
これによれば、溶液耕の標準培養液・大塚A処方のMg濃度は 60ppm=120㎲/㎝、B処方(園試処方)では 80ppm=160㎲/㎝。
常用し、かつ吸肥しやすい溶液耕の肥料濃度は、土耕よりやや低めに設定してある。
今回の処方でキーザーマグのMg濃度は 375㎲/㎝、ハイグリーンは 210㎲/㎝ 。これは園試処方よりは高濃度だが、 "鉢植えのMg欠乏症の緊急対策用として許容範囲" と考えている。どうだろう?
使用量
濃度は「リキダス」と同程度だし、溶液耕の標準培養液と比べても問題はない。問題は「量」と「使用頻度」。
今回はMg供給の他に「土壌酸度を下げる」という緊急の目的もあるので多少厄介だが、pH6.5以下になるまで、2日に1回の灌水に混ぜて使用。
今後継続的に使用する場合は(他にMgの供給源がない場合は)、流亡する分を考えても2週間に1回(あるいは原液の量を1/2にして週1回)施用すれば充分ではなかろうか。
鉢栽培での使用量は、吸収根の状態や培土の保水性、保肥性(CEC)も影響するだろうし、栽培の途中でMgの過不足を判断するのは容易ではなさそうだ。答えはいずれバラが教えてくれるだろうが、施肥の記録と新葉の観察を重ねて、自分の目を鍛えたい(バラの声が聞こえるようになりたい)と思う。
改善目標
今の状況を改善するためのとりあえずの目標は、特定の葉を継続的に観察しながら、健全な上位葉に MG欠の予兆の黄斑点 が出ないように、そして新葉にはそれがまったく出ないように、まず排水のpHを6.5以下にすること。
これを実現するために、①キーザーマグ水溶液、②ハイグリーン水溶液、③マグホス・クエン酸水溶液、④クエン酸2%水溶液の順に、いずれも給水時で pH5.5 を目処に灌水。排水がpH6.5以下になれば通常の肥培管理に戻す。
ただしこのプロセスには問題があって、酸+アルカリの中和反応 ⇒ 水+塩類 が生成され、これによってEC値が上昇する。現在使っているECメーターはイオンの総量を計測するもので、チッソ肥料の含有量を示す "硝酸イオン" だけを計測することはできない。したがって、このメーターでは培養土中のチッソの量を正確には測れず、高いEC値だけどチッソ不足という事態も生じうる。
② 秋の開花までの対策 粒状のまま使用
10月10日までにはpH6.5以下にしたい。それができたら "ハイグリーン(粒)" を10号鉢あたり10グラム(忘れないよう単純な語呂合わせ:p )鉢土表面にばら撒いて、軽く中耕する。微量要素の追肥(液肥)は、生育の様子を見て "勘" で判断するしかないが、まず必要ないだろう。
4. 微量要素だけでなく 肥料三要素も溶脱か
用水のpHを下げるために加えたクエン酸によって溶脱したのは Mg だけではないだろう。クエン酸の作用機作や、葉の色や大きさなどの "樹勢" から、他の微量要素やNPKも溶脱したと見るのが妥当。
これも一部の株に発生している症状。葉脈間に、濃紫〜黒のアントシアニン(推測)が蓄積している。Mg欠が下位葉に黄変が出るのに対し、これは場所を選ばない。この葉は剪定位置の五枚葉で、後ろに新芽が見えている。剪定時にはこれほどの症状ではなかったはずだが、新芽の伸長に伴って酷くなってきた。これも肥料の欠乏、特に "チッソ欠乏" ではないか?と考えている。それは複数の株におよび、株によっては以下のような症状が出ている。
- 葉脈間にアントシアニンが蓄積(フロージン'82, あけぼの, ダイアナ など)
- 全体の葉色が黄色っぽくなる(手児奈, イーハトーブの風. ロッシ⁺, ダイアナ, メルヘン, 魅惑 など多数)
- 葉のサイズが小さく、ステムが伸びない(ほとんど全株、特に、雪まつり, 衣通姫 など)
- 五枚葉が少ないまま早く結蕾してしまう(あけぼの, 魅惑 など)
- 葉柄に勢いがなく、垂れ下がる
- ベーサルシュートが出にくい
参照
依然として排水のECが高い状況が続いている。当初は、高EC値ゆえ『チッソは足りている』と思い込んでいた。しかし、その高いEC値はバラにとって有効な肥料成分のイオン濃度を反映していない可能性があることに気づいた。
発芽と花芽形成のこの重要なタイミングに、微量要素の追加だけでは不充分だろうと思うので、肥効が早い "アンモニア態チッソ" を主成分とする水溶性の配合肥料・ "千代田化成550" |サンアグロ㈱ で作った手製液肥の追肥を始めた。が、発芽のタイミングにやや遅れてしまった感がある。
でも、まだ秋の佳花が咲く可能性はあると思うし、もしここで見限ったら、それこそバラに申し訳ないことになる。できる限りの手は尽くしたい。
「リカバーの10月 pHとECの推移」に続く